日本能率協会 JSTC技術英語専任講師 中山裕木子
今回は「メールのフォーマット」をご紹介し、いくつかのメールを練習します。さらにはメールにまつわるこぼれ話をご紹介して、メールの解説を終えます。
【メールの基本フォーマット】
英文メールには次の5つの要素(+メールの自動入力署名)があります。
- 件名 やRe:
- 呼びかけ Dear ,(正式)やHello , (略式)
- パラグラフ本文(1~3つ程度の段落)
- 結び Regards, Best Regards, やSincerely,(正式)
- 署名 Yukiko Nakayama(正式)やYukiko(略式)
+メールの自動入力署名
メールの中心となる「パラグラフ本文」は、1~3つ程度の段落(空行で段落を分ける)から構成し、「書き出し(メールの要件を書く)→詳しい説明→要求アクション(要件を繰り返す)」へと展開します。要件で開始し、要件でメールを終えることで、忙しい読み手にメールの要件が読み過ごされることを防ぎます。1つの段落は1~3程度の文で作ります。
Review of Meeting Minutes on March 20 件名は具体的に。頭だけ(および必要な文字のみ)を大文字にする(Review of meeting minutes on March 20)、または冠詞と前置詞を除く各単語の頭を大文字にする(Review of Meeting Minutes on March 20)。 *返信メールとして作成すると自動でRe:が入る。ReはRegarding(~に関して)の意味(Replyの意味などと言われることもある)。
Dear Ms. Smith, Dearで呼びかけるのが正式。コンマで区切る。さらに正式な表現にはセミコロンもある(Dear Ms. Smith;)。 名前はMr. /Ms.+上の名前とする(万が一、面識がなくて性別がわからない相手に送る場合には「Dear フルネーム,」とする。) *略式なメールでは「Hello, +下の名前」なども可能。
3-1 書き出し メールの要件または前のメールとのつながりを書く。要件をI am writing to…と書き出す、感謝のメールは「お礼」から書く、など内容に応じて適切な書き出しを選ぶ。 例: I am writing to…/I’m writing to…/This is to…(これは~するメールです) I would like to thank you for…/Thank you for…(お礼) We are sorry for…/Sorry for…(謝罪) We have received your…(~のメールを受け取りました)
3-2 本文 段落を1~2個。各段落は1~3文程度。段落間には空行を1行入れる。
3-3 要求アクション 締めの言葉は「何のメールだったか」を言う。行ってほしい要求アクションがある場合には「~までに~して」などと具体的に書く。感謝するメールでは感謝、謝罪するメールでは謝罪を繰り返してメールを終える。 例: We (would) need your replay to this matter by…/We would appreciate your reply by...
Regards, 結びはRegards, Best Regards, Sincerely,(正式)など
Yukiko Nakayama 結びと署名の間は1行空けるのが通例(ビジネスレターの署名スペースの名残り)
+自動入力による署名(必要項目のみを含める) 例1: Yukiko Nakayama 名前 Japan Society for Technical Communication 組織名 Tel/Fax: +81 3-3434-2350 電話・ファックスなど Email: nakayama@jstc.jp メールアドレス
例2: Yukiko Nakayama 名前 Chief Instructor 役職名 XX Sector 部署名 Japan Society for Technical Communication 組織名 3-1-22 Shiba Koen Minato-ku, 住所 Tokyo, 105-0011, Japan Tel/Fax: +81 3-3434-2350電話・ファックスなど Email: nakayama@jstc.jp メールアドレス https://jstc.jp/ URLなど |
【メールの練習】
いくつかのメールを英訳して、フォーマットを練習しましょう。
① 感謝するメール
ビジネスを円滑にする「感謝する」メールを適時に出せるようにしておきましょう。「~してくれてありがとう」より開始し、感謝する内容を具体的に書きます。
件名:ソウル出張中のお礼 キムさんへ ソウル出張中は大変お世話になり、ありがとうございました。 仕事の後には観光にもお連れくださって、大変楽しい時間を過ごすことができました。 本当に、ありがとうございました。 今後ともどうぞよろしくお願いいたします。 中山ゆきこ |
Thanks for Your Hospitality in Seoul Dear Mr. Kim,
Thank you for your hospitality during our stay in Seoul.
You took us to many sightseeing spots after our business meetings. We enjoyed the tour very much.
This trip has also strengthened our business relationship. Thanks.
Regards,
Yukiko Nakayama |
≪ポイント解説≫
・ hospitalityは「おもてなし」。
・ 長い文は2文に分ける。
・ メールの主語は「私」「あなた」そして「モノや事象」も可能。感謝メールではThank you…ばかりではじまったり、I really thank…などとIとthankの組み合わせが続いたりしがち。上の3つの主語から自由に選ぶと単調になったりくどくなったりせずに書ける。
・ 段落を作る。1行ずつに改行せず、ひとまとまりの段落を作る。今回は、1行目で第1段落、2行目と3行目で第2段落、また4行目とThanks.で第3段落を作っている。
・ We enjoyed the tour very much.の代わりにWe had a great time. I had a good time.などもOK。シンプルなSVOを心がける。
・ 句読点について、呼びかけのDear Mr. Kimと結びのRegardsの両方のコンマを省略するスタイルもある(ビジネスレター時代からSNS時代への変化により略式化したためと思われる)。省略する場合には両方のコンマを省略。
×これはやめる Dear Mr. Kim, Thank you for your hospitality during our stay in Seoul. You took us to many sightseeing spots after our business meetings. We enjoyed the tour very much. The trip has also strengthened our business relationship. Thanks. Regards, Yukiko Nakayama * 1行ごとに改行のメールは不可。英語は「パラグラフ」を単位として文書を構成する。メールも例外ではない。但しメールのパラグラフは1行からなるものも多い。 |
② 依頼するメール
メールで何かを依頼をすることは多くあります。「何」を「いつまで」にして欲しいかを、はっきり伝えることが大切です。メールはレイアウトも大切です。一読して相手が読む気になるよう、段落に分けたすっきりとしたメールを心がけます。
件名:5月20日の電話会議の議事録案の確認のお願い スミス様 いつもお世話になっております。 添付の5月20日の電話会議の議事録案をご確認いただきたく、お願いいたします。 適宜の加筆修正をいただき、6月5日までにお戻しください。 よろしくお願いいたします。 中山ゆきこ |
※電話会議=conference call、議事録=the minutes、加筆修正=additions and changes、案=draft
Review of Meeting Minutes on March 20 Dear Ms. Smith,
I am writing to ask you to review the attached draft minutes of the conference call on March 20.
Regards,
Yukiko Nakayama |
≪ポイント解説≫
・ 「お世話になっています(Thank you for your continuous support to us.など)」は英語では不要。1行目から本題に入る。
・ 「電話会議の議事録案」はdraft of the minutes of the conferenceのようにof, ofを続けず、一部をまとめることで短くできる(→draft minutes of the conference)。
・ 「確認する」は「読んで改善する」ことであれば、review(=調べる、内容を検討する)やcheck(チェックする)、またはread(読む)などが可能。なお、「確認する」の日本語に当てはまるconfirm は「裏付ける、再確認する」という意味。confirmを使いこなすのが難しいと感じる場合には、違う動詞を選ぶと良い。
・ It would be grateful if you can return the final version to me by June 5 after making additions and changes to it as necessary.のような一見丁寧な長文は避けて短くする。
・ Please…で「してほしいこと」を促す。
・ 「前もって感謝する(Thank you in advance.)」とせずに「感謝する(Thank you.)」と言う。「よろしくお願いします」は英語になりにくいので削除、またはその都度具体的に書く。
③ 主張するメール
依頼の中でも強く主張することが必要な場合があります。一例は、価格交渉などです。そんな場合にも、まずは伝わることを目指して、ストレートに要求を伝えます。一方で、「自分側の力の無さ」を伝えるなどして、失礼に響かないように配慮することができます。
件名:UE-2019SU の見積りについて テイラー様 お世話になっております、XY-Corporationの中山です。 見積りをお送りいただき、ありがとうございました。 見積価格を検討させていただきましたが、ご提案の価格での注文は難しいという結論に至りました。 より競争力のある価格の提示をお願いしたいのですが、例えば注文分量を増やす、などにより価格を下げていただくことは可能ではないでしょうか。 ご検討をいただけますと幸いです。 今月末までにお返事をいただきたく、お願い申し上げます。 お返事お待ちしています。 中山ゆきこ |
≪ポイント解説≫
・ I’m Yukiko Nakayama from XY-Corporation.などと冒頭で名乗らない。メールは宛先が出るため名乗ることは不要。
・ 現在完了形(have+過去分詞)は「過去から今の状況」を一度で表す。
・ After carefully considering the price you offered, we reached our conclusion that it is difficult to place an order at the price you offered.のような長い文はやめる。
・ 「できる・できない」は明示する。「難しい(difficult)」を使うと「できる・できない」が不明で誤解につながるため避ける。
・ Would you consider a more competitive price, possibly for a larger order?の他の表現には、We would need to ask you for a better price.などが可能。
・ 主張の度合いを調整する助動詞の働きを理解する。
・ メールの最終文はWe are looking forward to hearing from you soon.よりも、「いつまでに何の返事が欲しいか」を書く。We would appreciate your reply by the end of this month.は「月末までにお返事をもらえると助かる」の意味。より強く言いたい場合にはWe would need your reply by the end of this month.(月末までにお返事をください)とすることが可能。
【メール短文化の時代に思うこと】
最後に、メールにまつわるお話を一つさせていただきます。英語にもいわゆる「敬語」があり、それが力を発揮するのが「相手の顔が見える」ために相手への配慮が必要になるビジネスメールであることは事実です。例えば「もう少し価格は下がりませんか」といった交渉にDiscount please.やWe want a discount.などと書いてしまうのは非常にぶしつけです。また、We need a discount.であっても、ぶしつけに感じる人もいるかもしれません。そこで、It would be appreciated if you could consider giving us a more competitive price.のような丁寧な表現が必要というような意見を聞くことがあります。
一方で、スマートフォンやSNSの登場により、ビジネスメールもどんどん短文化する傾向があります。かつてのビジネスレターの延長であった表現よりも、まずは「伝える」、そして「読んでもらう」ということに着眼する時代が来ていると考えることができます。少しでも短く文を構成することが大切です。例えば本連載では、第3回【依頼する】でWe have no choice but to ask you for a more competitive price.を例示しました。これが直接的過ぎる場合には、今回使ったようなWould you consider a more competitive price?とすることが可能です。またさらに、Would you consider a more competitive price, possibly for a larger order?のように具体的な交渉の情報を加えることができれば、より有益な議論となるでしょう。基本的には「伝える」ことを第一として、その先は、相手との関係、依頼する内容の要求レベルに応じて、どの程度間接的な表現へとぼやかす必要があるかをその都度調整するとよいでしょう。
次に、ビジネスの間柄でどこまで崩したメール、要件のみのメモのようなメールが許容されるかという点も、メール短文化時代の悩みです。例えば社内のコミュニケーションであれば、要件のみのメールを繰り返し送ることも可能です。社外の仕事の相手に対する場合であっても、例えば何度もやりとりをする中でフォーマットが崩れ、次のようなやりとりをすることがあるかもしれません。そのような場合には、崩したフォーマットのまま続けるのではなく、話題を切り替えるときに正式なフォーマットへと戻すとよいでしょう。
メール1: Hello George, This is another proofreading request. Thanks.
返信: Hi Yukiko, when is the deadline?
メール2: Hi George, I need it back by next week Monday (June 5). |
このように、ショートメールのようなメールのやりとりを実際に社外の仕事の相手と行うことがあるかもしれません。フォーマットよりも速度を優先したこのような短いメールも必要に応じて使うとよいでしょう。
一方で、崩して表現することはいつでもできますので、最低限のフォーマットを守る形を基本としておくことが得策です。上記のような「短いメールのやりとり」は、一つの話題に絞って行うとよいでしょう。新しい話題になれば、Dear XX, という「呼びかけ」の正式表現に戻し、「メールの構成」を守って書きます。一例として、次のメールは、実際に私が上記のようなショートメールののち、話題が変わった時に受け取った英文メールです。
Dear Yukiko,
It’s a pleasure to be working with you for another year.
Please find the attached invoice for the contract we put in place yesterday.
Regards,
George |
このように、ビジネスメールのフォーマットをきちんと守りながら、しかし昨今のメールの短文化要求にも応えるメールのあり方が、今の時代のビジネスコミュニケーションの現実的な形となると考えています。
今回でメールは終了です。次回は他の文書へと進みます。
出典:工業英語ジャーナル 2019年6月号