日本能率協会 JSTC技術英語専任講師 中山裕木子
企業様がビジネスの現場で3つのC「正確・明確・簡潔」を満たす文書を作成する方法を伝える連載をはじめました。
前回は、短文英訳を通じて、3つのCをご紹介しました。
今回は、企業ホームページの製品説明を想定して、英文のブラッシュアップ(「リライト」と呼びます)の練習をします。
また、最後に「3つのCのチェックポイント」を示します。
3C「正確・明確・簡潔」を実務で実践
「3つのC」のコツを使って、実際に英文をブラッシュアップ(リライト)する練習をします。まずは名詞と動詞を丁寧に見ていきます。そして、文の構造を改善し、全体像を整えます。リライトは、原文の英語を活かしながら短時間で行うことで、原文が意図している内容を保持しながら改善することを目指します。
例1から例4まで、リライト前の英文は、日本企業のホームページからの英文を元にしています。またリライト後の英文は、本記事の執筆者により、英語の学習目的にて作成したものです。 |
リライト練習1:Elevator(エレベータ)
XY company developed a out door type observation elevator for high rise building. The out door type observation elevator has a structure that the cage overhangs from a wall. That makes people feel like floating in air, and makes a view beautiful. (XY社は、高層ビル用のアウトドアタイプの観測エレベータを開発しました。エレベータの箱が壁から張り出す構造をしています。そのため、乗っている人は空中に浮いているように感じ、眺めも良いです。) |
≪チェックポイント≫ 名詞の扱い(冠詞・可算不可算と単複)、時制、文の構造
名詞と冠詞の不具合を修正
- out door → outdoor(一語にする)
- a outdoor → an outdoor(不定冠詞を正しく)
- typeを削除する。「タイプ」「型」は、ほとんど英訳不要。
- high rise → high-rise(必要箇所にハイフン)
- building(建物)は数えるため複数形に。
時制を変更
- 過去形developedは「すでに終わった今と関係のない事象」となるため、現在完了形has developedに変更することで、「今」とつなげる。
語数を減らす、文の構造を改善する、具体化する
- The outdoor type observation elevator(長い) → The elevatorとすることで短くする。短くする際、代名詞itは使わない。
- a structure that(~という構造?)という表現を使わず、「構造」の内容を表す。日本語から訳すと「~という構造」や「~という利点」「~という問題」などがa structure that、an advantage that、a problem thatなどと誤訳されがち。内容を伝える表現に変える。
- That makes people feel like…は「人々が~したい気分になる」という意味で不適切。またpeopleと前文とのつながりが不明。people → passengers(乗客)とすることでelevatorとの関係を出す。
- 最終文は、平易な動詞experience(経験する)、enjoy(楽しむ)によるSVO(誰かが何かをする)に変更する。
【リライト結果】 XY company has developed an outdoor observation elevator for high-rise buildings. The elevator has its cage overhanging from a building wall. Passengers can experience the feeling of floating in the air and enjoy a beautiful view. |
リライト練習2:Speed Sensor(スピードセンサー)
This magnetic sensor which is constructed from in-house made magneto-resistive element (MRE) and IC makes it possible to detect the vehicle speed. |
≪チェックポイント≫ 長い表現、不要な単語は無いか、仮目的語itは語数が増えて読みづらいので変更する
関係代名詞whichの不具合
This magnetic sensor which is constructed fromは長くて読みづらい。be constructed fromを、能動的な動詞一語に変更する。関係代名詞は、類似の修飾表現(例:分詞・前置詞を使った句など)と比べて利点がある場合にのみ使用する。利点の例は「長い説明であっても、一息ついて、読ませることができる」であり、今回は該当しない。
不要な単語を削除する
in-house made(自社製?)magneto-resistive element → our magneto-resistive elementに変更。elementは可算のため、ourにすることで冠詞の欠落も改善する。
仮目的語itは避け、語数を減らす
make it possible toを削除する。
【リライト結果】 |
リライト練習3:Smart Key System(スマートキーシステム)
Our smart key system with coded wireless technology enables someone carrying the portable unit to lock/unlock a door and start/stop the engine easily without the need for a mechanical key (暗号化無線技術を使用した弊社のスマートキーシステムによると、持ち運び可能ユニットを持参する人は、機械的なカギを使わずにドアの開錠・施錠やまたエンジンの始動や停止ができる。) |
≪チェックポイント≫ 具体的か、名詞の不具合は無いか
名詞と冠詞の不具合を修正
- どのドアでも良いわけではないため、a door(不定冠詞)は不適切。また「解錠されるドア」は複数のため、the doorsに変更。
具体的に整え、語数も減らす
- someone → the driver(車の鍵を持つのは運転手。具体的に)
- スラッシュの使用を減らす。lock/unlock → lock or unlock、start/stop → start or stop
- without the need for a mechanical key → without a mechanical key(語数を減らす)
【リライト結果】 |
リライト練習4:Steering Gear(ステアリングギア)
The steering gear is an equipment which play a prominent role in the ship handling. The following four characteristics are especially required of the steering gears. They are high reliability, high durability, high accuracy, and torque characteristic. (ステアリングギアは操船において重要な役割を果たします。ステアリングギアは、次の4つの要求を満たすことが求められています。高信頼性、高耐久性、高精度、トルク特性です。) |
≪チェックポイント≫ 動詞の誤りはないか、冠詞の誤りはないか、単語数が多いので減らす、主語をそろえる
名詞と冠詞の不具合を修正
- equipmentは不可算 → a device、a piece of equipmentなどとする。または、is an equipment whichを削除する。
- the ship handling → ship handling(特定の「操船」の話ではなく一般論であるため、theを取る。数えない名詞の場合、無冠詞で一般論を表す)
- characteristic → characteristics(「特徴」は多くの場合、複数とする)
文の構造を整えて語数を減らす
- 主語をThe steering gearに整える、また語数を減らす。
【リライト結果1】 |
*原文の情報を保持してリライト。
【リライト結果2】 |
*簡潔にリライト。
これらのリライト過程から、英文に不具合がある場合の共通点が見えてきました。まずは「名詞」の扱い、つまり単複や可算・不可算、また冠詞です。次に、動詞に関連する不具合、例えば時制、三単現sの欠落などです。次に、具体性、つまり明確性の欠落です。最後に、不要な単語の多さです。つまり、正確・明確・簡潔の項目にしたがってチェックをすれば、短時間で適切な英文へとリライト(ブラッシュアップ)することができます。
■ 3C「正確・明確・簡潔」のチェックリスト
Correctのチェック項目、Clear & Conciseのチェック項目を示します。
Correct(正確さ)のチェック項目
「名詞」をチェックする。数える名詞の単数形を無冠詞で書いていないか、不適切な冠詞の使用はないか、また単複の決定が適切か。
平易な単語を使っているか。技術用語が適切か。
日本語が透けて見える表現に誤りは無いか。
正しい表記法を使っているか。スタイルガイド*に従った表記となっているか。
カタカナ語・略語の英訳が正しいか。正しい用法かどうか。
単純誤記は無いか。技術文書の誤記は致命的であることを心に留め、十分に確認ができているか。 |
*スタイルガイドとは、出版物などにおいて統一した言葉使いを規定する手引きです。主に出版社や学術雑誌などで用いられています。次の例があります。
- The Chicago Manual of Style, The University of Chicago Press
- The Gregg Reference Manual, William A. Sabin, McGraw-Hill Irwin
- The ACS Style Guide, Anne M. Coghill, Rorrin R. Garson, American Chemical Society
- AMA Manual of Style, American Medical Society, Oxford University Press
Clear & Concise:明確さ、簡潔さのチェック項目
- 主語の直後に動詞が来ているか(頭でっかちな文になっていないか)。
- someなどの曖昧表現がないか。
- 一語でも減らせないか。
- 読み手にとってやさしい単語を使えているか。一般語にはできるだけ平易な単語を使い、一方で専門家への読みやすさのために技術用語を適切に保持できているか。
- 同じことを表す表現を一貫して使っているか。
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英文のブラッシュアップ(リライト)のポイント:
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出典:工業英語ジャーナル2018年9月号