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仕事はスピードと精度 ビジネス技術英語ライティングの基本(1)

日本能率協会 JSTC技術英語専任講師 中山裕木子

 

2001年に「工業英語の3つのC」に出合いました。特許翻訳者として働き始めて1年ほどがたったときでした。そのときの感動は、今でも鮮明に覚えています。

「SV、SVO、SVCだけで書こう」という教えに導かれ、まっすぐな一本道を見い出していました。同年に工業英検1級(現・技術英検プロフェッショナルレベル。以下同じ)に合格、2004年より当協会の専任講師として工業英語を広める活動を続けてきました。本ジャーナルの執筆は、穴をあけずに続けてきた活動の一つです。

時がたっても今なお難しく、そして面白い工業英語の世界を、引き続き、皆さんに伝えていきたいと思います。今回の連載は、特に日本の企業にて、業務で英語を必要とされるエンジニアや研究職の方々を対象にしています。3つのCの説明から開始し、種々のビジネス・技術文書に3Cを実践する方法を解説します。

 

本連載の内容(予定)

  1. 3つのCの基本的な考え方
  2. Correct、Clear、Conciseのコツ
  3. 各文書で実践

    【会社・製品紹介】【メール】
    【マニュアル】【仕様書】【企画書】
    【議事録】【報告書】【契約書】他

多忙な業務の中で素早く3つのC(正確・明確・簡潔)を満たし、かつ適切な「スタイル」にて各文書を作成したりチェックしたりしていただける一助となりたいと思います。私も初心に戻り、基礎から執筆いたします。

 

3Cの基本的な考え方―シンプル英語は仕事のスピードと精度を高める

ビジネス・技術におけるコミュニケーションでは、次のことが大切です。

● 明確性
● スピード

誰にも誤解がなく、明確に伝える。そのことが、仕事におけるコミュニケーションでは必須となります。組織の内部向けの文書も、外向けの文書も、「明確」に伝えることが重要です。

そして、仕事は「スピード」が勝負です。大きな仕事も、小さな仕事も、ゆっくりのんびりと取り組んでいては、顧客要望を満たすことができません。スピードを持って、素早く取り組むことが大切です。「素早く」仕上げることで、仕事の中身を見直す時間を取ることができ、結局は精度が上がる可能性も高まります。例えば30分かけて行う仕事であっても、30分丁度に最終物が完成するよりも、15分で仕上げ、残りの15分、見直してじっくり検討することで、仕事の品質を高めていくことができます。

そして、明確性とスピードよりも前に次の大前提があります。

● 正確であること

仕事のコミュニケーションで目的を達成するためには、「正確」でなければいけません。誤りが一つでもあれば、情報を必要としている読み手の目的を満たせません。不正確な内容を伝えたことにより読み手が誤った判断をすれば、ビジネス・技術の分野での多大な損失や重大な事故にもつながりかねません。

ビジネス・技術のコミュニケーションで重要な「3つのC」について、英英辞書による定義もあわせてここに記載します。明快で分かりやすい定義です。

Correct   正確であること

If something is correct, it is in accordance with the facts and has no mistakes.
「正確」とは、事実にしたがっていて、誤りが無いこと。

Clear      明確であること

Something that is clear is easy to understand, see, or hear.
「明確」とは、理解しやすい、見やすい、聞きやすいこと。

Concise   簡潔であること

Something that is concise says everything that is necessary without using any unnecessary words.
「簡潔」とは、不要な言葉を一つも使わずに、必要なことをすべて伝えること。

英英辞書Collins COBUILD(https://www.collinsdictionary.com/)

 

短文英訳でウォーミングアップ

正確で、明確で、簡潔なコミュニケーションを目指して、まずは短い和文英訳(1)~(3)にトライしてみましょう。内容理解が平易な3つの文を英語で表現してください。

  1. 三角形は3つの辺と3つの角から構成される。
  2. 不純物が存在すると、ダイヤモンドのグレードが下がる。
  3. 喫煙やライター等の使用により火災報知機の大きな警報音が鳴ります。

*(3)は新幹線の手洗い室内の掲示より抜粋

本記事の読者の方に効率的に演習に取り組んでいただけるように、「訳例」を使って英文をブラッシュアップします。訳例は、筆者の企業研修の受講生(エンジニア・研究職の方々)が実際に書いた英文を元にしています。

(1) 三角形は3つの辺と3つの角から構成される。

訳例① Triangle is consisted of three sides and three angles.
訳例① Triangle is consisted of three sides and three angles.
訳例② A triangle is composed by three sides and three angles.
訳例③ The triangle is composed of three sides and angles.
訳例④ Triangles have three lines and three corners.

 

色々な訳例が出そろいました。英文の重要な要素である「主語」と「動詞」をまずはチェックしましょう。誤りがあれば正しくし、各訳例の良いところを活かしながら、正確・明確・簡潔な文へとブラッシュアップしましょう。

 

■ 主語(三角形)をチェック

①Triangle×
「三角形」は数えますので、無冠詞単数形は誤りです。「この文脈では数えたくない」や「一般論として表したい」という理由で、数えるべき名詞を数えないということは、英語では許容できません。

②A triangle○
代表する1つの三角形を取り出して表しています。他のどの三角形にも当てはまる内容として、種類全体を代表します。今回の文脈では最も分かりやすい表現です。

③The triangle○
「三角形」と聞くと、読み手は何らかの三角形状を頭に浮かべます。正三角形の人もいれば、二等辺三角形の人もいるでしょう。「三角形」を知らない読み手はいないでしょう。このように、個々の三角形ではなく「三角形という種類」を特定する役割を果たす定冠詞theを使っています。
なお、定冠詞theは「その」を表すと学校で習ったことかもしれません。定冠詞theが使えるのは、「読み手」と「書き手」の双方が共通して「頭に描ける」状況です。今回の文脈は三角形を定義する内容ですので「種類を表すthe」の使用が可能です。

④Triangles△
文法的に正しいですが、「複数の三角形」をここで出すと後半の内容「3つの辺と3つの角から構成される」が理解しづらくなります。単数で書くほうが分かりやすいでしょう。

 

■ 動詞「~から構成される」をチェック

①is consisted of×
be consisted ofは文法誤りです。consist ofが正しい表現です。「~から構成される」はconsist ofとbe composed ofが定訳ですが、これらを混同してしまったり、覚えるのが難しいと感じる場合には使用しないようにしましょう。また他にも「be comprised ofという表現もあったかな?」などと混同する場合には、これらのフレーズの使用自体を控えることをすすめます。なお、be comprised ofは「誤り」と考えましょう(下記「スタイルガイドワンポイント」参照)。

正しく使える自信がある場合にのみ、consist ofとbe composed ofを使って「~から構成される」を厳密に表すとよいでしょう。

スタイルガイドワンポイント:be comprised ofは誤り

➤ Use “to comprise” to mean “to contain” or “to consist of ”; it is not a synonym for “to compose”. The whole comprises the parts, or the whole is composed of the parts, but the whole is not comprised of the parts. Never use “is comprised of ”.

incorrect A book is comprised of chapters.
correct A book comprises chapters.
A book is composed of chapters.

(The ACS Style Guide, 3rd editionより)

 

②is composed by× ③be composed of○
be composed byは誤りです。be composed ofが正しい表現です。なぜbe composed byは誤っていて、be composed ofは正しいかについて、「前置詞」を理解することが大切です。前置詞byは、ここでは「動作主のby」を表します。いわゆる「受動態のby」です。しかし「X is composed…(Xは~から構成される)」の内容では、後ろに来るのはたいてい「Xの構成要素」です。「Xを作った動作主」や「動き(=動作)」を必要することは、文脈上ほとんどありません。つまり「動作主のby」が意味として不要であるために、be composed ofという前置詞ofを使った「熟語」が発生し、定着したと考えるとよいでしょう。前置詞ofは「所属」や「所有」を表す前置詞です。

②で「動作主のby」を活かしたければ、composeを別の動詞に変更しましょう。例えばA triangle is formed by three sides and three angles.とすることで、「動作主のby」が使用可能になります。ここまで進めば、次は受動態を能動態に変更しておきましょう。つまりThree sides and three angles form a triangle.と書けます。また動詞をformから変更し、Three sides and three angles define a triangle.(3つの辺と3つの角が三角形を定義する)と書くことも可能です。動詞の選択により、文の明快さが変わります。

④have○
最も簡単で誤りが生じにくいのが「have(~を持っている)」です。haveは主語や目的語を選ばずに色々な文脈で使用が可能です。

その他:
単語「辺」と「角」について、適語はside(辺)とangle(角)です。単語が頭に浮かばない場合、知っている単語で代用しましょう。④のようにline(線)とcorner(角:かど)を使っても問題ありません。またブラッシュアップの過程で、lineとcornerは技術的な単語line segment(線分)とvertexes(頂点)に変更するような可能性もあるでしょう。

表現「3つの辺と3つの角」についてthree sides and three anglesのようにthreeを2回繰り返すか、または③のthree sides and anglesというように2回目のthreeを省略するかという議論があります。簡潔性の定義は、先にあげたように「不要な単語を一つも使わずに、必要なことをすべて伝えること」です。「不要な単語」かどうかという点を判断します。threeを繰り返すことで「3つの辺と3つの角」が分かりやすく明確になると考える場合には、繰り返すとよいでしょう。

以下はブラッシュアップの結果です。続いて「解答」も示します。

【ブラッシュアップの結果】

①→A triangle consists of three sides and three angles.
②→Three sides and three angles define a triangle.
③→The triangle is composed of three sides and three angles.
④→A triangle has three line segments and three vertexes.

 

【解答】A triangle has three sides and three angles.

≪ポイント≫ 誤ってしまう難しい単語の使用を避けて、平易に表現することが大切です。誰でも書ける文は、誰でも読める文です。思い切って難解な表現をやめ、平易に書きましょう。

(2) 不純物が存在すると、ダイヤモンドのグレードが下がる。

訳例① If there is impure matter, diamond grade is down.
訳例② If diamond has impurity, the diamond’s grade will be degraded.
訳例③ The value of a diamond decreases because of its impurities.
訳例④ The existence of impurities makes the grade of diamond lower.

 

英文の不具合は「名詞」と「動詞」が大部分を占めています。そこで、まずは「名詞」と「動詞」の正しさをチェックするとよいでしょう。「動詞」部分を整えれば、文全体の改善が可能になります。

 

■ 名詞をチェック

不純物:impure matter(不純物)は、正しい単語です。matter(物質)の扱いも適切です(「物質」の意味でのmatterは不可算)。一方、二語ではなく一語で表すことができるとより適切です。impurities(不純物)と表現できます。また、impurity(不純物)には可算と不可算の両方の用法があり、可算で使う場合には複数形が通常です(下の辞書の定義参照)。複数形の使用により、「色々な種類の不純物」を明示できます。

impurity: 1 [countable usually plural] a substance of a low quality that is contained in or mixed with something else, making it less pure
例文:All natural minerals contain impurities.
英英辞書Longman(https://www.ldoceonline.com/jp/dictionary/impurity)

 

ダイヤモンドのグレード:①diamond gradeのように二語を羅列することは可能です。しかし①の文脈では、冠詞が無いため、前半のdiamondとの関係が不明確です。the diamond gradeのようにtheを使えば、前半のdiamondとの関連性を表すことが可能になります。②のthe diamond’s gradeは、アポストロフィーエス(’s)が不適切です。アポストロフィーエス(’s)は、基本的に「人」に対して使いますのでここでは不適切です。

なお、diamondは可算・不可算のいずれも可能です。つまり③The value of a diamondも④the grade of diamondも可能です。④では、前半の「impuritiesの存在するdiamond」ということを明示するためにthe grade of the diamondのようにtheを使いましょう。

 

■ 動詞をチェック

英語の「動詞」は、文の構造を決める役割を果たします。①では、はじめにthere is構文(be動詞)、後半(主節)にもbe動詞が使われ、文全体のつながりや明確性が欠けています。②では、後半(主節)が受動態となり、読みづらくなっています。③はbecause ofが表す因果関係が分かりにくくなっています。④では、makeを使ったSVOC構文により文の構造が複雑になっています。

訳例①~④のそれぞれについて、順を追って、ブラッシュアップします。

【ブラッシュアップの過程~結果】
① If there is impure matter, diamond grade is down.
→ Impure matter downgrades the diamond grade.(SVO・単文の構造に変える)
→ Impurities downgrade the diamond.(冗長を取る:完成)

 

【ブラッシュアップの過程~結果】
If diamond has impurity, the diamond’s grade will be degraded.
If diamond has impurity, the diamond will degrade its grade.(主語をそろえる)
Diamond with impurities will degrade its grade.(複文→単文に変える)
Diamond with impurities will have a lower grade.(平易な動詞に変える:完成)

 

【ブラッシュアップの過程~結果】
The value of a diamond decreases because of its impurities.
Impurities decrease the value of the diamond.(because ofの後ろの名詞を主語にしてSVOで書く:完成)

 

【ブラッシュアップの過程~結果】
The existence of impurities makes the grade of diamond lower.
Impurities make the grade of diamond lower.(不要語を削除する)
Impurities lower the grade of the diamond.(SVOC→SVOに変える)
Impurities degrade the diamond.(さらに動詞を変更してもよい:完成)

 

【解答】Impurities will degrade the diamond.

 

≪ポイント≫ ビジネス・技術の英語はシンプルな世界です。短い文が正しく書ければ、どんなに長い英文も大丈夫です。まずは短文を正しく書けるよう、練習することが大切です。

(3) 喫煙やライター等の使用により火災報知機の大きな警報音が鳴ります。
訳例① Fire alarm sounds louder by smoking and using lighter etc.
訳例② If you smoke or use a lighter etc., the fire alarm will go on to produce a big warning sound.

 

日本語と英語の違いを考えずに直訳をすると、誤ってしまうことがあります。英語に訳した後には、必ず「英文」だけを前から読み、正しく情報を伝えているかを確認します。

 

■ 日英の違いによる不具合をチェック

①の不具合を修正します。まず、Fire alarmが表す「火災報知機」には定冠詞theが必要です。この説明文が掲示されている場所に存在し、特定できるためです。次に、「大きい」を表すlouderは比較のerを使っていますが、何との比較かが分かりません。また「小さな警報音」が状況として考えにくいことを考えると、「大きな」は不要な情報とも考えられます。次に、by smokingは「手段のby」ですが、主語がずれているため「fire alarmがsmokingする」という意味になり不適切です。また、lighter(ライター)の無冠詞は誤りです。基本的にerで終わる名詞は数えます。最後にetc.について、日本語の「等」に対して使用すると不明瞭になります。

【ブラッシュアップの過程~結果】
Fire alarm sounds louder by smoking and using lighter etc.
The fire alarm sounds when detecting smoking or use of a lighter.(主語のずれを修正)
The fire alarm sounds upon detecting smoke or use of a lighter.(複文構造を調整:完成)

 

②を修正します。逐一対応する直訳となり、長くて意味が伝わりにくくなっています。まずは冗長を取り除き、次にIf you smoke…という複文を、Smokingを主語にした単文に変更します。なお、「複文」とは、主語と動詞が2セット登場する文です。一方「単文」とは主語と動詞が1セットのシンプルな構造の文です。またsmoke or use a lighter(喫煙したりライターを使用したりする)に「等」の意味が入っているためetc.を削除します。

【ブラッシュアップの過程~結果】
If you smoke or use a lighter etc., the fire alarm will go on to produce a big warning sound.
If you smoke or use a lighter, the fire alarm will produce a warning sound.(冗長を取る)
Your smoking or using a lighter will produce a warning sound of the fire alarm.(単文に変更する)
Smoking or using a lighter will activate the fire alarm.(さらに冗長を削除:完成)

 

【解答】Smoking or the use of a lighter will activate the fire alarms.

 

≪ポイント≫ これは実際に新幹線の手洗い室内に掲示されている英文です。「無生物主語・SVO・単文・能動態」というビジネス・技術英語の特徴を生かした文の構造になっています。なお、the fire alarmsの複数形は、複数車両に設置されている複数のalarmsが鳴るためと考えるとよいでしょう。

短文英訳にトライ!のポイント:

  • 伝わる英文を書くコツは「名詞」「動詞」「文の構造」に気をつけることです。
  • まずは英語の「名詞」を習得すれば、英語を書くことに自信が付きます。名詞を正しく学び、使いこなすことを目指しましょう。
  • 「動詞」の選択で、文の構造が決まり、文の印象が変わります。動詞を正しく、そして効果的に使えるよう、練習をしましょう。

 

第1回は、短文英訳を使った3C英語のウォーミングアップをしました。次回以降、企業様のホームページ英語(仮想)などを検討し、3つのCのコツを詳しく伝えます。また、各種文書のスタイルと3つのCの実践について説明してまいります。読者の方々にできるだけ演習に参加いただけるように、英訳や英文のブラッシュアップを通じて、3つのCを伝えてまいります。

 

出典:工業英語ジャーナル 2018年6月号